普段の生活で、私たちの手指は様々な物に触れます。また私たちは、自分の手で無意識に自分の顔に触れることがあり、手を使って食事をします。これらは生活する上でごく自然な行為ですが、中には感染者のくしゃみや咳によってウイルスなどが付着した手すりやドアノブに接触し、その手で口や鼻を触ってしまうこともあります。無意識にウイルスを手で粘膜に運んでいるケースです。
帰宅後や通勤して職場に到着した後、食事をする前などは、意識して手を洗い、手指に付着しているかもしれない菌やウイルスを落としましょう。清掃作業中の手洗いのタイミングは、少なくとも、作業後、手袋を脱いだ後、食事前、トイレ後です。どこにウイルスが存在するかわかりませんので、こまめに手洗いすることが重要です。手洗いの際は、必ず石鹸やハンドソープを泡立ててください。泡が発生することで有効成分の表面積が多くなり、手に付着した微細なウイルスを物理的に除去しやすくなります。手のひらや手の甲はもちろんのこと、指の間や親指の付け根なども忘れずに洗浄しましょう。よく洗い残す部分として挙げられるのは「指間の付け根」「手のひらの関節にある指紋」「手首」です。ここは意識してしっかり洗いましょう。指の爪も雑菌や汚れが溜まりやすく、爪が長いほど入念に洗う必要があります。爪用のブラシ等を活用するとより効果があります(使用後のブラシは洗ってしっかり乾燥させましょう)。手洗いは焦らずに念入りに行うことが、安全への近道になります。
手洗い後は必ず水滴をふき取りましょう
なるべく使い捨てのペーパータオルでふき取ってください。使いまわしの湿ったタオルは菌やウイルスの温床になり、ウイルスを手に再付着させてしまう危険があります。また水滴をふき取らないと、手洗い後のアルコール消毒が意味をなさなくなってしまいます。アルコール消毒は揮発することによって効果があります。濡れた手のままでアルコール消毒を行えば揮発しにくくなるだけでなく、その濃度も希釈してしまい、消毒効果が減退してしまうのです。
アルコール消毒は、必要時に
手洗いは、界面活性剤によってウイルスを不活化するだけでなく、ウイルスを物理的に落とすこともできます。これは、アルコール消毒ではできないことです。一方、アルコール消毒によって、手洗いで落としきれなかったウイルスを確実に不活化することができます。ただ、ウイルスによってはアルコール消毒が意味を成さないこともあるため(例えばノロウイルス)、それぞれのウイルスの特性を踏まえたうえで対策することが重要です。
特定のウイルスに見られる膜状構造のことをエンベロープと呼びます。このエンベローブはウイルスの一番外に形成され、いわばウイルスが膜をまとっている状態です。この膜状の構造を持つウイルスと待たないウイルスがあり、エンベロープを持つウイルスは、エンベロープが破壊されることで不活化し、感染力がなくなります。エンベロープは主に脂質からなっているので、界面活性剤(石鹸や洗剤)やアルコールによって破壊することができます。新型コロナウイルス(COVID-19)もエンベロープウイルスで、70%のアルコールで不活化することが確認されています(その他の一般的な洗剤や石鹸に関しては、まだ検証されていません)。
このほか、インフルエンザウイルスもエンベロープを持つウイルスなので、こまめな手指衛生を行うことがもっとも効果的です。エンベロープを持たないノロウイルスは、通常のアルコールでは消毒できないため、入念な手洗いか、いわゆる酸性アルコール消毒剤を使用しましょう。
アルコール消毒は、必要時、手洗いと合わせて使用しましょう
日常生活においては、石鹸による手洗いで十分ですが、病人がいる場合など、より清潔を保つ必要があるときには、手洗いの後のアルコール消毒が有効です。新型コロナウイルスでも、一般的には手洗いで十分ですが、同居者が発熱して感染の疑いがあるときなどには、アルコール消毒を併用するとよいでしょう。
アルコール消毒の前に、まず手のひらにある無数の様々なウイルスや菌を手洗いによって洗い落とします。その後アルコール消毒を行って、残ったウイルスを不活性化しましょう。消毒剤は、手洗い時と同じように「指先」や「指の間」「爪」を意識して素早くすり込みます。また、アルコールが揮発しきるまではどこにも触れないことを心がけましょう。アルコールは揮発することで、雑菌を脱水させ減弱させる作用があるので、すり込みながら乾燥させる必要があります。
アルコール消毒液は市販のものを活用できますが、最も消毒力が強くなる濃度70%~80%の物を選びましょう。この濃度以上でも以下でも消毒力が低下します。無水エタノールと呼ばれる高濃度のものは手荒れなどを引き起こす恐れがありますので、手指消毒には不向きです。手荒れが原因で感染する恐れや、肌の表面に凹凸ができウイルスが付着しやすくなる恐れもあります。2020年2月現在、アルコール製剤や消毒剤が入手しにくい状態が続いています。止むを得ず無水エタノールを使用する場合には、精製水などで希釈したもので代用することができます。精製水ではなく水道水で希釈することもできますが、水道水に含まれる成分が時間経過とともにアルコール分を劣化させてしまうため、あまりおすすめできません。
なお、アルコール消毒は、普段の生活では必要ないものです。手荒れを引き起こさないよう、多用するのはやめましょう。